研究の目的 現在、後天性免疫不全症候群(AIDS)は世界的規模で問題となっている。その病因ウイルスであるHIVに類似したウイルス(SIV)にアフリカ産霊長類は高率に感染していることが明らかにされてきたことから、それらサル類をモデルとしてAIDS発症に関与する個体の素因、主として、遺伝的背景を明らかにすることを目的とした。 研究の経過・成果・考察 既存のサンプルに加え、新たに、エチオピア・ケニヤ・ジンバブエよりヒヒの血清300検体を収集した。また、ケニヤ国ナイロビの霊長類研究所より、コロブス・マンガベイの血液を入手し、ウイルス分離のための細胞株の樹立を試みている。一方、HIVとは異なるウイルス群に属するが、アジア産霊長類であるマカクにAIDS類似病像を惹起するD型レトロウイルスの疫学検索のための材料をタイ国より入手した。 サル類における遺伝的多様性の基礎データを得るため電気泳動法を用い遺伝的多型性を検出した。その結果、ヒトでその遺伝子型とHIV保有との関連が言われているビタミンD結合タンパク質(DBP)の新たな多型が、ヒヒ類で見い出された。これらの多型は、ヒヒ集団・地域によってその出現頻度は異なっていた。また、トランスフェリン・サイロキシン結合タンパク質・プラズマプロテアーゼインヒビター等にも遺伝的変異性が見い出されている。 今後の問題 今回、血清タンパクを中心に遺伝的変異性の検索をおこなったが、ウイルスの標的であるリンパ球の表面抗原等の変異性にも目を向ける必要があろう。また、発症を惹起しないSIVだけでなく、D型ウイルスについても同様の検索をおこなう計画である。
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