研究概要 |
有機溶剤の中枢神経系に対する影響を機能的レベルで定量的に評価する目的で精神・経経・心理テストバッテリ-の開発を試みた。対象は塗装職場の有機溶剤作業者20名とその対照群として溶剤暴露のない年齢・教育歴をマッチングさせた20名の計40名で,テストバッテリ-にはできるだけ広い中枢神経系の影響の評価ができるように(1)言語性テスト(2)Block Design(3)数唱,ベントン(4)符号テスト,サンタアナ,手ー眼共応テスト,反応時間(5)感情プロフィ-ル検査(6)自覚症状調査(61項目)を採用した。有機溶剤作業者の特性は平均年齢39.50±11.87才,有機溶剤作業年数13.47±12.47年であり,対照群の平均は39.55±11.57才である。テストバッテリ-成績を対応のある七検定で解析すると言語性および符号テストにおいて有意差が認められた。また重回帰分析によりテスト項目別にみると,言語性および,視覚ー空間認識を示すBlock Designは有機溶剤作業年数が長いほど低下する。記憶力を示す数唱は作業年数が長いほど,また晩しゃくの習慣があるほど成績が悪くなっている。視覚ー運動速度を示す反応時間(左)では有機溶剤暴露者が有意に遅延していた。また感情の面では疲労トルエン暴露者に混乱は有機溶剤作業者により高得点であったが,言語性テストも調整した重回帰分析では,感情プロフィ-ル検査POMSの疲労,抑うつ,混乱でのみトルエン暴露者により影響が認められた。今回の結果から有機溶剤暴露の中枢神経への影響は主に情緒の障害が機能的障害に比較して前面に現れてくることが示唆された。
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