キノコによる中毒は毎年のように繰り返されており、稀には死亡例も報告されている。比較的軽い中毒を起こすクサウラベニタケによる中毒は秋田県においてはかつてはかなりの数になっていたが、近年は教育・宣伝により減少した。しかし、皆無となったわけではなく、中毒の機会がますます増加する危険性もある。クサウラベニタケと食用のウラベニホテイシメジとの判別は、慣れればそれほど難しくはないが、中には両者の中間に位置されるような食毒の判断に苦労するものもあり、簡易な科学的判定法の確立が待たれている。本研究は、発色試薬による方法、分光光度計による吸収スペクトルの差異による方法、高速液体クロマトグラフィによる方法などの判定法への利用の可能性を探るとともに、ラットを用いin vitro、in vivoでの両キノコの投与による脳内セロトニン代謝への影響を検討した。発色試薬による判定法は、大木らの方法が発表されているが、両者ともに全ての反応が陽性となってしまい判定不可能であった。分光光度計による吸収スペクトルの差異による判定法は、吸収を示すものもあるが、今後更に検討する必要がある。高速液体クロマトグラフィによる方法では電気化学検出器の利用により、Sep-Pak C_<18>カラムによりメチルアルコ-ルで溶出し検査を行なうと大きなピ-クを示した。サンプルによりピ-クの位置・大きさに差があり、判定の一方法として有効な可能性を示唆した。ラットを用いたin vitro実験では、セロトニン代謝の著しい促進が観察された。しかし、セロトニン代謝の抑制はいずれの群でも観察されなかった。また、in vivo実験では両キノコの投与により、5-HTとdopamineの著しい増加が両群共に観察された。5-HTの増加はMAOによる5-HT代謝が抑制された結果と考えられる。dopamineの増加はクサウラベニタケ中のムスカリンの作用とも考えられるが、このメカニズムの解明は今後の研究課題である。
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