死前血・死後血の鑑別のため、死後血中に浸透してくるミオグロビン(Mb)を指標とする方法を検討した。本研究では高感度の酵素免疫測定法(ELISA)を用いてMbの定量を行うことを検討した。 イヌMbをイオン交換法および電気泳動法的に精製してウサギに免疫し、抗イヌMb血清を作製した。抗体の一部はIgG分画とした後、ビオチンを標識した。イヌMbの定量のために次の三種類のELISA法を比較検討した。 (1)直接抗原固定法;血清を希釈してELISA用プレートに固定し、抗イヌMb血清と反応させ、ついでビオチン標識抗ウサギIgG血清を反応させ、ABC試薬で検出する。 (2)標識抗体との競合法;イヌMbをプレートに結合させ、希釈された血清とビオチン標識抗イヌMb血清を反応させた後固定抗原に添加し、ABC試薬で抗原を検出する。 (3)サンドイッチ法;抗イヌMb血清をプレートに結合させ、希釈された血清を加えてイヌMbを反応させ、このMbをさらにビオチン標識抗イヌMb血清と反応させ、ABC試薬で検出する。 (1)の方法で精製Mbは約5ngまで定量できたが、血清の場合はミオグロビン以外の多量の蛋白質がMbの固定化を阻止し、正確な定量は困難であった。(2)の方法は10ng程度のイヌMbの定量まで可能であったが再現性に乏しく不適であった。(3)の方法は最も高感度が期待されたが、上記2つとほぼ同程度の感度を示した。この方法では最初の結合部位の結合によって影響されない第二の抗原部位の存在が必須であるが、Mbは分子量が比較的小さいことが災いしているのかも知れない。しかし、この方法は再現性が最も良く、死後1時間程度では殆どの血中からMbを検出できた。 以上のことから、これまでより容易な方法で死後の早期に血中Mbの定量が可能となり、実際の検体への応用が期待された。
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