研究概要 |
本年度は実際の中毒事例が多い農薬のうち化学的性質の異なる3種類の農薬を選び、薬動力学的パラメーターを算出する実験を行った。 実験方法:実験動物として犬を用い、ネンプタール麻酔下で3種類の農薬(パラコート,マラソン,メソミル)を静脈内投与し、経時的に採血、採尿を行い、各農薬の血清中濃度曲線を求めた。なお、パラコートはSEP-PAK C18で精製後、高速液体クロマトグラフィーで、また、マラソンはケイ藻土カラムExtreluteで精製後、今回購入した炎光光度計検出器付きガスクロマトグラフで定量した。次に各血清中濃度曲線を既設のマイクロコンピュータで解析を行い薬動力学的パラメーターを算出した。なお、メソミルについては当初予定していた定量方法に問題があったため現在検討中である。 血清中パラコート濃度曲線を非線形最小二乗法により指数関数へのあてはめを行ったところ、3-指数関数で示され、パラコートの体内での分布排泄は二つの末梢コンパートメントを持つ3-コンパートメントモデルで解析することができた。また、臨床的に重要な消失相におけるパラコートの半減期は約10時間内外であった。一方、マラソンの血清中濃度曲線はパラコートの場合と異なり、1あるいは2-指数関数で示され、また、消失相における半減期はパラコートより早く、2〜3時間であった。体内で殆ど代謝されず主として腎臓から排泄されるパラコートと、加水分解などの代謝により体内から除去されるマラソンとの体内挙動の相違が2つの農薬の薬動力学的パラメーターの違いとして現れていた。一方、これらのパラメーターは投与量や生体の状態によっても変動し、その変動の割合は毒物の種類で異なっていることが予想される。現在、中毒時という特異な状況におけるこれらパラメーターの変化について検討中である。
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