前年度の静脈内投与実験に引き続いて経口投与実験を行い、薬動力学的パラメ-タ-を算出すると共に、実際の農薬中毒を想定した大量投与実験を行い、各薬動力学的パラメ-タ-の法医中毒学的応用について検討した。 実験動物として犬を用い、実際の中毒事例が多い農薬のうち化学的に性質の異なる3種類の農薬(パラコ-ト、マラソン、メソミル)を投与量を変えて経口投与して経時的に採血、採尿を行い、各農薬を定量した。なお、パラコ-トはSEP-PAK C18で精製後、高速液体クロマトグラフィ-で、マラソンはケイ藻土カラムExtreluteで精製後、炎光光度計検出器付きガスクロマトグラフで定量した。また、メソミルはSEP-PAK C18で精製後、同様にガスクロマトグラフで定量した。次に各血清中および尿中農薬濃度を既設のマイクロコンピュ-タ-で解析を行い薬動力学的パラメ-タ-を算出した。 中等量を経口投与後の各農薬の生物学的利用率(bioavailability)は大きな個体差が認められたがパラコ-トでは約5%、マラソンとメソミルでは2%から20%と低く、これらの農薬の物理化学的性質あるいは吸収率の低さが関係していると思われた。特にマラソンとメソミルについては胃腸管内での分解が大きく寄与していると思われた。半減期は静脈内投与の場合と同様の値を示した。一方、大量経口投与の場合の生物学的利用率は中等量投与の場合と同様に個体差が著しく、投与量との間に明確な関連は認められなかった。また、そのほかの薬動力学的パラメ-タ-についても投与量依存性の変化は認められなかった。しかし今回の実験で得られたそれぞれのパラメ-タ-は法医学的な服毒量の推定や中毒患者の治療などに応用できるものである。
|