実験動物として犬を用い、中毒事例が多い農薬のうち化学的性質の異なる3種類の農薬(パラコ-ト、マラソン、メソミル)の薬動力学的パラメ-タ-を算出する実験を行い、各薬動力学的パラメ-タ-の法医中毒学的応用について検討した。 静脈内投与後の血清中パラコ-ト濃度曲線を非線形最小二乗法により指数関数へあてはめを行ったところ、3-指数関数で示され、パラコ-トの体内での分布排泄は二つの末梢コンパ-トメントを持つ3-コンパ-トメントモデルで解析することができた。また、臨床的に重要な消失相におけるパラコ-トの半減期は約10時間内外であった。一方、マラソンとメソミルの血清中濃度曲線はパラコ-トの場合と異なり、1あるいは2-指数関数で示され、また、消失相における半減期はパラコ-トより早く、2〜3時間であった。 経口投与後の各農薬の生物学的利用率(bioavailability)は大きな個体差を認められたがパラコ-トでは約5%、マラソンとメソミルでは2%から20%と低く、これらの農薬の物理化学的性質あるいは吸収率の低さが関係していると思われた。特にマラソンとメソミルについては胃腸管内での分解が大きく寄与していると思われた。半減期は静脈弦与の場合と同様の値を示した。一方、中毒時を想定した大量経口投与の場合、パラコ-トではある程度の投与量依存性の変化が認められた。しかし、マラソンとメソミルの場合は投与量との間に明確な関連は認められなかった。今回の実験で得られたそれぞれのパラメ-タ-は法医学的な服毒量の推定や中毒患者の治療などの基礎資料となるものであるが、今後さらに組織中の薬物あるいは代謝物濃度などを調べさらに検討する必要がある。
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