医師が診療中の患者がその疾患で死亡したとき以外の場合は、一般に「異状死」といわれ、医師法第21条などにもとづいて所轄警察に届出られ、監察医や臨床医師などにより検案される。異状死は、不慮の中毒死、その他の災害死、自殺、他殺などの外因死、医師が診療中でなかった病死、死体として発見された場合などが含まれる。すなわち異状死は極めて多彩であり、総死亡数の約15%に及んでいる。検案によっても死因などが判明しない場合は、地域によっては行政解剖がおこなわれる。犯罪に関係がある場合は、刑事訴訟法による司法解剖に付される。 異状死の検案・解剖においては死因の確定が最も重要であるが、それにもまして死亡時刻の推定、すなわち検案・解剖時における死後経過時間の推定も極めて重要な問題とされている。 死後経過時間の推定法については、従来から国の内外においていろいろな研究がなされ、その成果が報告されているが、実用的な良い方法はほとんどない。著者は、検案・解剖時に得られる死体現象に関わる所見(直腸温・角膜混濁度・死斑発現程度・死体硬直発現程度)のそれぞれを数量化して表現し、その組み合わせ図表を作成することを企図した。これらは実用面では、経験的に総合判断されて死後経過時間が推定されていたものであるが、数量化とその組み合わせ図表を用いることにより死後経過時間推定がより客観的になると考えられる。昭和63年度においては、当教室司法解剖中の適当例500体分についての前記各死体現象所見データが収集整理された。現在、これらを総合図表化するための計算作業中である。 昭和64年度(平成元年度)においては、一応作成された図表を今後の実際例に適用しつつ、過去のデータ例数をさらに多数収集整理して、補正し、実用化に向けた推算図表を作成する予定である。
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