我々は脂肪細胞に異化亢進作用を示すモノカインであるカケクチン/TNFにつき検討してきた。これまで、脂肪細胞を用いてカケクチン/TNFがその貯蔵脂質に対し著しい異化亢進作用を示すこと、及び、前脂肪細胞から脂肪細胞への分化に強い抑制作用を示すことを明らかにしてきた。本年度は、IL-1をはじめとしIFNβ、IFNγ、PDGF、TGFβなど、カケクチン/TNF以外のサイトカインが脂肪細胞の代謝および分化に及ぼす作用について検討した。3T3-L1前脂肪細胞は、線維芽細胞の性質を持つが、脂肪細胞へと形質転換し、酵素学的にも形態的にも成熟脂肪細胞の生活を示すようになる。分化後の脂肪細胞はホルモンに対する反応も成熟した脂肪細胞と全く同じになる。この細胞にIL-1、IFNβ、IFNγ、PDGF、TGFβを加え、リポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性およびホルモン感受正リパーゼ(HSL)の活性に対する影響をみた。IL-1はカケクチン/TNFと同様に著しいLPL活性の抑制、HSL活性の亢進を示した。その他のサイトカインではIFNγおよびPDGFが強いLPL抑制作用を示した他、IFNβ、IFNγ、PDGF、TGFβも高濃度においてはLPLの抑制を示した。しかし、HSL活性に対してはIL-1以外には有意の作用を示すものは少なく、PDGFで軽度の活性亢進が認められただけであった。脂肪細胞への分化に対するこれらサイトカインの影響は極めて弱く、IFNγが分化を遅らせる作用を示した他はIL-1を含め作用を示さず、カケクチン/TNFにみられるような細胞障害作用はいずれのサイトカインも全く示さなかった。以上、本年度は、カケクチン/TNFを中心とするサイトカインネットワークの脂肪酸代謝に対する作用の特異性について明らかにした。
|