B型肝炎ウィルスは各種肝疾患の原因ウィルスの一つであり、本邦には約200万人のキャリアがいると推定される。B型肝炎ウィルスDNA(HBVDNA)の検索はこれまでサザンブロット法或いはSpot法を用いて行われてきた。しかしながら、これらの方法での検出感度は約1〜0.5pg(ウィルス粒子として10^4〜^5個)が限界であった。我々は核酸を高度に増幅しうるポリメラ-ゼ・チェイン・リアクション(PCR)法を用いてウィルス1個のレベルでHBVDNAを検出する方法を開発した。この方法を用いて患者血清を検索した結果、従来ウィルス量が多いとされていたHBe抗原陽性患者はもとより、ウィルスが殆んど存在しないと考えられていたHBe抗体陽性患者血中にも大多数は微量のウィルスが存在している事を明らかにしえた。またHBe抗体陽性患者でも長期間にわたり肝機能が正常域内におちついている患者ではこのPCR法を用いてもHBVDNAは検出されず、このような患者ではウィルスが血中から既に排除されている可能性を示した。更にこのPCR法により増幅した産物を直接シ-クエンス法を用いて解析する事により、HBs抗原遺伝子の塩基配列を容易に決定しうる事を示した。この手法により、HBs抗原のサブタイプd/y型、r/w型がそれぞれHBs抗原遺伝子の第122番、160番により決定されるとの報告を裏付ける成績が得られた。同様にHBC、pre-C領域の遺伝子配列を解析する事により、ウィルス量の少ないとされているe抗体陽性例においてはpre-C領域中に変異が生じpre-C領域の機能が失われる為にHBe抗原の発現が抑制されている可能性を示した。
|