慢性石灰化膵炎(膵石症)に対する経口溶解療法の病態生理学的および臨床的研究

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 63570334
• 研究機関: 愛知医科大学
• 研究代表者: 野田 愛司 愛知医科大学, 第3内科, 講師 (30023790)
• 研究分担者: 加藤 仁 愛知医科大学, 第3内科, 講師 (80152734) ; 渡辺 務 愛知医科大学, 第3内科, 教授 (00097809) ; 亀谷 さえ子 愛知医科大学, 第3内科, 講師 (10148322)
• キーワード: 慢性石灰化膵炎(膵石症) / 膵石溶解 / ジメタジオン(DMO) / トリメタジオン(TMO) / 炭酸カルシウム / 慢性胃・膵瘻犬 / 膵内外分泌機能 / 膵液

研究概要

1.in vitro実験:予め採取したイヌ膵液を用いて、DMOの0〜1,000μg/ml溶液を作製。膵液〔HCO_3^-〕はHCI添加により変化させた。溶液中にCaCO_30.2gを加え、既報のごとく濾液中のCa濃度、pHを測定した。CaCO_3の溶解度はDMO/NaHCO_3溶液の場合と同様に、種々の〔HCO_3^-〕膵液においても〔HCO_3^-〕に依存して低下したが、濾液中pHの変化はわずかであった。すなわちDMOによるCaCO_3の溶解はpHの低下も関与しているが、DMOの脱カルシウム作用によるCa^<++>(DMO^-)_2コンプレックスの形成に起因することが示唆された。2.in vivo実験:慢性胃・膵瘻犬を用い、DMOの前駆物質であるTMOを0〜160mg/kg/日、14日間連続経口投与。翌日セクレチン刺激下で膵液および血漿を経時的に採取。本年度新たに得られた結果は(1)膵液〔HCO_3^-〕は膵液DMO濃度に密接に依存して低下するが、膵液pHは有意の変動を示さなかった,(2)膵液DMOクリアランスなる新しい概念を提唱した。3.臨床試験:ヘルシンキ・東京宣言に則り、17例の膵石症患者にTMOを0.6〜1.5g/日経口投与。3〜4カ月毎に腹部単純X線撮影およびCTscanを行い、膵石の消長を検索した。一部の患者では、膵内外分泌機能を追跡した。TMOの療法中、24カ月以上治療群において明らかな膵石の溶解を5例(29.4%)、部分的溶解を7例(41.2%)に認めた。膵外分泌機能障害の改善は7例中3例に認められた。膵性糖尿液は8例(47.1%)に認められたが、うち5例は経口糖尿病薬のみでコントロ-ル可能であった。TMO療法開始前に膵体尾部切除を受けていた1例にのみ、本療法中にインスリン投与が必要になった。本例では、残存膵頭部の膵石はほぼ完全に溶解消失し、膵外分泌機能障害は高度であるにもかかわらず、少量のインスリン投与で糖尿病はよくコントロ-ルされている。本例を含め、TMO療法中の患者のquality of lifeは良好である。

研究成果

• [文献書誌] Noda,A.: "Dissolution of pancreatic stone" Trop.Gastroenterol.(India). (1990)
• [文献書誌] Noda,A.etal.: "Pancreatic excretion of dimethadione and trimethadione by repeated oral administration of trimethadione in dogs" Digestion. (1990)
• [文献書誌] Noda,A.etal.: "Effect of dimethadione derived from repeated oral administration of trimethadione on pancreatic secretion in dogs" Gastroenterol.Jpn.
• [文献書誌] 野田愛司,高山哲夫: "慢性石灰化膵炎(膵石症)に対する経口膵石溶解療法の意義" 日消誌. 87. 445 (1990)
• [文献書誌] 奥村一郎,野田愛司,他: "潰瘍性大腸炎に併発した慢性膵炎の1例" 膵臓. 4. 551-557 (1989)
• [文献書誌] 高山哲夫,野田愛司,他: "ジメサジオン(DMO)によるビ石溶解作用の臨床応用の可能性" 胆と膵. (1990)
• [文献書誌] Nakamura,K.,Noda,A.: "Epidemiology of chronic pancreatitis(仮称)(“Etiological aspects of chronic pancreatitis in Japan")" Sarles H.etal, (1990)
• [文献書誌] 野田愛司,早川哲夫,他: "症例から学ぶ膵臓病学(“非陽性結石を伴った若年男性の慢性膵炎")" 中野哲,早川哲夫編(医学図書出版), 633(P.76-81) (1990)