発癌物質の多くは体内で代謝されてはじめて活性をもつようになる。この代謝活性能は細胞や組織により、さらには個体間で大きく異なることが知られている。このような内因性発癌要因の分析は癌の予防を考える場合、特に重要である。本研究は癌患者、特に肺癌患者や癌発症高危険群における遺伝的素因、発癌リスクを明らかにしようとすることである。1.肺癌におけるras癌遺伝子発現と予後:ras癌遺伝子産物p21に対するモノクローナル抗体を用いて、原発性肺癌における癌遺伝子の発現を調べた。原発単腫瘍最大径が30mmを越える腺癌および偏平上皮癌は、いずれも30mm以下のものに比べて、rp-35に対して高反応性であった。TNM分類、T因子ではT_2およびT_3症例はT_1症例に比べてrp-35に対し高反応性であった。このことはモノクローナル抗体によって認識されるras p21抗原がヒト原発性肺癌の原発巣局所における増殖や、造腫瘍性に関与することを示唆するものである。さらに患者の予後をみると、ras p21癌遺伝子発現の強い症例は弱い症例より予後は明らかに不良であった。以上よりras癌遺伝子の異常は肺癌の悪性度や予後を知るためのマーカーとなり得ることが明らかになった。2.必須微量元素、ビタミン類と癌:癌患者、癌発症高危険群、癌発症低危険群、および地域住民を対象に血清中のセレンやビタミンA、Eを測定し、肺癌発症、家族性因子を検討した。肺癌患者家族の血清セレン値やビタミンE値は対照群より低い傾向を示し、特に腺癌家族群では低値を示した。さらに肺癌患者ではこれらの値は高度な低値を示した。これらの成績は肺癌家族における血清セレン、およびビタミンE値の低下には家族性因子が存在することを示唆している。今後、地域性との関連性について検討する予定である。
|