任意に選んだ56例の気管支喘息患者の血清を用いて、カイコガ翅、トビケラ翅およびユスリカ全虫体に対するIgE抗体を測定すると、39例(全症例の70%)において上記のいずれかの昆虫抗原に対するIgE抗体が検出された。一方、個々の患者における昆虫IgE抗体出現様相を見ると、23例(昆虫IgE抗体を検出した患者の59%)は上記3種の昆虫IgE抗体を共に持っていた。この事実は、(1)大部分の患者はカイコガ翅(チョウ、ガ)、トビケラ翅およびユスリカ全虫体に共に感作されている、(2)これらの3種の昆虫抗原は互いに交差反応性が強い、あるいは、(3) (1)と(2)の両者の場合が考えられることを示した。そこで、上記3種の昆虫抗原間の交差反応性を、次の方法を用いて検討した。 1.RAST inhibition testによる検討;カイコガ翅、トビケラ翅、ユスリカ全虫体およびダニに対して高いIgE抗体を持つ5例の患者血清を等量ずつ混合後4等分し、各々をカイコガ翅、トビケラ翅、ユスリカ全虫体、ダニの段階希釈液で吸収しmutal RAST inhibition testを行った。昆虫IgE抗体を50%吸収するのに要する昆虫抗原量は昆虫抗原の種類により異なり、抗原蛋白量1ー10μg/mlの範囲では、各々異なった昆虫IgE抗体の吸収量が得られた。しかし、吸収抗原濃度をそれより高くすると、昆虫IgE抗体および吸収に用いる昆虫抗原の種類にかかわらず、ほぼ100%までIgE抗体を吸収した。この事実は、昆虫抗原間の交差反応は複雑な様相を呈することを示唆した。一方、ダニと昆虫の間ではほとんど交差反応を示さず、昆虫アレルギーとダニアレルギーは互いに独立した普遍的なアレルギーであることが示された。 2.昆虫IgE抗体の季節変動パターンの観察;上記3種の昆虫IgE抗体の季節変動パターンは完全には一致せず、抗原性は異なることを示した。 上記の矛盾点を解決するために、今後は分子レベルでの検討を要する。
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