昭和63年度の種々の交叉反応試験の結果から、カイコ蛾翅、トビケラ翅およびユスリカ全虫体抗原の分子レベルでの抗原解析の必要性が生じたので以下のごとく検討し、新たな問題点を得た。 1)SDS-polyacrylamide gel電気泳動(SDS-PAGE)による抗原分析 上記の昆虫抗原を2-mercaptoethanolで還元した後SDS-PAGEによって分画すると、分子量80-14K daltonsの間に、カイコ蛾翅抽出液は約16本、トビケラ翅抽出液は約7本、ユスリカ全虫体抽出液は約7本の異なる分子量分画が検出された。 2)酵素抗体法(ELISA)による気管支喘息患者感作分画の検討 上記の昆虫抗原分画のうち患者血清のIgE抗体と結合する感作抗原分画をSDS-PAG、およびimmunostalning法で調べた。 その結果、感作抗原分画の数および分子量分画は個々の患者で異なっており、患者が吸入している抗原分画は個々の患者で異なっていることが示唆された。 過半数の患者血清のIgE抗体と結合した分画を主要な感作抗原分画とすると、カイコ蛾翅では75-79K、67-68K、63-64K、40-42K、32-33K、28-30K、daltons、トビケラ翅では67-68K、49-50K、30-31K daltons、ユスリカ全虫体では40-42K、25-27K daltonsが、それぞれ主要な感作抗原分画であると推定された。 昭和63年度の成績と以上の複雑な結果から、昆虫抗原間の交叉反応性の検討は、今後何等かの方法を工夫して、抗原分画と抗体のaffinityの差異を含めて、分子量分画別に更に検討する必要性を感じた。
|