軸索病変を主体とする末梢神経障害の発症機構に、軸索輸送の動態異常が関与している可能性について、2種類の実験的ニューロパチー・動物モデルを用いて検討した。 1.Ethylene Oxide Neuropathy 200ppmのethylene oxide(EO)を暴露して作製したラットの末梢神経障害モデルを用いた。腰髄前角にRI標識アミノ酸を定位手術的に注入した後、ラベルされた蛋白が座骨神経内を速性軸索輸送として移動する速度を測定した。また、神経線維数・密度の変化などの病理的所見との対比を行った。大径有髄神経線維数の有意な現象が認められたが、概して病理的変化は比較的軽微であった。これに反して、速性輸送速度はEO暴露群で著名に低下していた。形態学的変化に先んじて、軸索輸送の動態に異常が現れることを示した。今後は、この現象が軸索変性を示す他の末梢神経障害に共通したものかどうかという確認と併せて、輸送される蛋白の構成成分の分析が課題となる。 2.p-Bromophenylacetylurea(BPAU) Neuropathy 上記と同様の方法でRIを注入し、一定時間後に、座骨神経を結紮し、結紮近位部に蓄積する標識蛋白の量を測定した。BPAU neuropathyでは、turnoverの速い蛋白が、多量に軸索へと送り出されていることを見出した。この蛋白は膜成成分構成蛋白であろうと思われる。一方、RI注入後、3〜4週間程経てから摘出した座骨神経中の標識蛋白を、SDSポリアクリルアミド電気泳動により分析し、遅性軸索輸送の速度などを検討した。速度には有意な変化は認められなかったが、輸送蛋白中、一部の細胞骨格蛋白の輸送動態の異常を見出した。他にも、輸送動態に変化がある蛋白が存在する可能性があり、今後は、2次元泳動、免疫ブロット法を駆使して、検索することが課題である。
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