研究概要 |
小脳障害の重要症候の一つにあげられている相反性神経支配異常の基にある神経機構の病態を探るため、特に随意運動時の開始時に注目して相反性抑制活動の評価と脊髄反射活動の検索を行った。脊髄小脳変性症患者10名(年令20-52才、男性7名、女性3名)及び正常対照例7名(23-46才、男性6名、女性1名)を対象とした。患者群はすべて、試験肢において筋緊張低下を呈するも随意収縮力及び腱反射を正常域内に維持し且つH反射の誘発可能な、軽症例を選んだ。負荷運動は視標追跡運動法によるステップ型足背屈運動とし、その機械的収縮曲線をトルクセンサーにより常時モニターした。運動開始の前後で拮抗筋(ヒラメ筋)と主動筋(前脛骨筋)にH反射を誘発して各運動ニューロンプール及びIa抑制回路活動の興奮性の変化を調べた。両群間の定量的比較を可能にするため、両者の試験H反射を最大M波の30-50%、随意収縮力を最大収縮力の20-40%に統一した。 正常例での相反性抑制は、主動筋筋電図出現とほぼ同時に現れる弱いものと、更に100ミリ秒以降の強いものと、2段階に生じた。両抑制の経過を通じてIa抑制回路の促通が見られ、この回路の相反性抑制発現への関与を示した。最初の抑制は下行する随意運動命令に直接起因するもの、第2はこれにγ-ループを介したIa入力の収束(α-γ-連関)の結果と考察した。一方小脳障害では、最初の抑制が消失し、第2の抑制は出現の遅れと強度の低下を示した。前者に就いては病的とする証拠は得られなかったが、後者の変化は有意であった。運動開始時のIa抑制の促通が観察され,運動命令そのものに定性的な異常は認められなかった。従って、小脳障害における相反性抑制の低下はγ系活動の低下によるものと結論した。本結果を論文にまとめるとともに、相反性抑制低下と筋緊張低下症状との関係に就いて一層の解析を進める。
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