研究課題
トリソミー16マウスを作成するために必要なRobertsoに転座染色体Rb(16、17)LubとRb(11、16)2Hを各々ホモに持つ親マウス、およびこれらのF_1は昭和63年2月より当動物実験施設にて飼育を開始した。このF_1♂と過排卵を誘発したBALB/C♀を交配して得られる8細胞期の受精卵とC57BL/6の8細胞期受精卵とを集合法によってキメラ化した後、仮親マウス子宮内に移植してキメラマウス固体を得ることに成功し、キメラ化の実験系は確立できた。キメラ化の程度はGPI-1のアイソザイム量から、核型は染色体分析から決定した。病理組織学的解析は年齢が1年に満たないため未だ行なっていないが、キメラマウスは明らかな異常を示していない。この間に生化学的、分子生物学的解析を行なうため、アミロイドβ蛋白質に対するモノクロナル抗体、アミロイド前駆体蛋白の各ドメインに対するポリクロナル抗体を作成し、遺伝子解析のためアミロイド前駆体蛋白のcDNAを調整した。その後、導入したマウスが肝炎ウィルスに汚染されていることが判明し、当施設の基準からアイソレーター内での飼育を余儀なくされたため、多数のキメラ作成は不可能となり、帝王切開によるクサーニングが必要となった。この処置に8ヶ月を要したが、ようやくキメラ作成と経時的観察を再開し、今後、形態学的、生化学的解析を行なう予定である。一方、子宮内で致死的であるトリソミー16をrescueするもう一つの方法として、胎児終脳神経細胞の無血清培地を用いた一次培養系を確立した。この系を用いてコリン作動性ニューロンの神経成長因子(NGF)に対する応答性を検討した結果、トリソミー16胎児脳のコリン作動性ニューロンでは正常対照と異なってNGFに反応してコリンアセチルトランスフェラーゼ活性が誘導されないことを見い出した。この所見とトリソミー16との因果関係の解析は重要であり、次年度の課題の一つとして取り組む。