研究課題
一般研究(C)
本研究は、ヒト第21染色体上に存在するアミロイド前駆体蛋白(APP)遺伝子を含む領域が保存されているマウス第16染色体についてトリソミ-となったトリソミ-16マウス(Ts16)がAlzheimer病(AD)におけるアミロイドβ蛋白(βAP)の蓄積機序を解析する上で有用なモデルとなり得るか否かを検討することを目的とし、胎生末期に子宮内で死亡してしまうTs16の神経組織をさまざまな方法によりrescueして長期にわたる観察を行ってきた。西ドイツより導入したTs16作成に用いる親マウスがマウス肝炎ウイルスにより汚染されていたため、帝王切開による除染処置が必要となり、Ts16【tautomer】正常キメラマウスを作成する実験系は確立したが、未だ経時的観察に十分な数のキメラは得られていない。Ts16【tautomer】正常キメラと確認されたマウスについては生後1年までの観察では行動上明らかな異常は認められず、今後組織学的検索を行なう。米国で作成されたTs16由来の神経細胞が約50%のキメラにおいてはβAPの蓄積がみられていないので、本年度はTs16胎児の神経組織を正常マウス脳に移植し、神経系を部分的にキメラとしたマウスも作成した。この移植片にβAPの蓄積がみられるか否かを今後検索する。一方、無血清培地を用いた神経細胞培養系を確立し、神経成長因子(NGF)に対する反応性を調べたところ、Ts16前脳基底野のコリン作動性neuronではNGFに応答してcholine acetyltransferase活性が誘導されず、また、単位重量当りのNGF含量はTs16では正常対照よりも増加していることを明らかにした。胎生後期においてAPP mRNAはTs16では正常の約2倍に増加していたが、APP各分子種の割合には正常と差異はみられなかった。これらの知見とADにおけるコリン作動性neuronの異常との関連をさらに検討する必要がある。今回用いた方法でrescueされたTs16がAD病変を再現できるか否かについてはキメラ、および移植系における組織学的検索の結果を待たねばならない。
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