神経系の発達にはニユ-ロン・グリアの相互作用が不可欠であるが、その物質的背景は必ずしも明らかでない。プロテオグリカン(PG)も神経系の発達に欠くことのできない物質であり、PGの異常をおこす疾患はしばしば精神遅滞を伴う。しかしながら、神経系のPGに関する知見はきわめて少ない。そこで、私達は、1)神経細胞の産生するPGの解析、2)神経細胞のPGの分化に伴う変化、3)グリア細胞の産生するPGの神経細胞に対する影響をPC12細胞、脳のコンドロイチン硫酸(CS)PGを用いて検索した。 1 PC12細胞の分化型、未分化型細胞のいずれもが、ヘパラン硫酸(HS)PGとCSPGを産生していた。 2 神経成長因子でPC12細胞が分化すると、細胞結合性のPGの含量、合成量が増加した。分化型細胞では、HSPGのコアプロテイン(61K)に51Kがあらたに検出された。HSの分子サイズは10Kと、未分化型細胞の12Kに比べ小さく、Nー結合性の硫酸基をもつHSが増加していた。これらの変化は、突起形成に先立って観察され、分化型細胞の産生するHSPGの性質は、扁平な形態のPC12D細胞の産生するそれとよく一致していた。したがって、HSPGの変化は、PC12細胞と基質との接着に関連が深いと考えられた。 3 培養液に放出されるCSPGは、分子サイズ、硫酸化の程度の異なる4種類が検出されたが、これらのうち、硫酸化の程度のもっとも高いコンドロイチン硫酸PG含量が、突起形成とともに増加した。 4 脳由来のCSPGのコアプテインが、PC12D細胞の増殖、神経突起形成を阻害することが明らかとなった。PGはこれまで神経系の構造物質であると考えられていたが、PGに、神経細胞の増殖、分化といったもっと積極的な生理作用があることが明らかとなった。
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