麻酔開胸犬12頭を正中開胸により心臓を露出し、左冠動脈前下行枝対角枝(1〜2本)およびそれへの側副血行路を結紮し心筋虚血を作成し、交感神経刺激の影響が虚血部より心尖部の健常心筋で消失(交感神経除神経)する時間経過を検討した。左室の有効不応期(ERP)は、星状神経節電気刺激(2Hz、2mA)により虚血作成前は、心基部側、心尖部側でそれぞれ14.3±2.9ms、12.9±2.5ms短縮した(NS)。冠動脈結紮後貫壁性虚血が作成(実験終了後にNBT染色で心筋梗塞の範囲を確認)されたのは6頭で、他の3頭では非貫壁性虚性、残りの犬では心筋梗塞は作成されなかった。非貫壁虚血の3頭では、交感神経刺激によるERP短縮は心尖部と心基部で差はなく、虚血によって交感神経は除神経されなかった(心尖部;虚血作成前14.3±4.2、作成3時間後12.1±2.8)。貫壁性虚性が得られた6頭では、虚血作成後30分までに心尖部の24個所中2個所(8%)でERP短縮が消失した。その後60分までには7個所(29%)、120分では8個所(33%)、180分では10個所(42%)と、交感神経の除神経は徐々に、かつ不均一に進行した。心基部側の15個所では、ERP短縮の度合は結紮前の14.3±2.9ms、結紮180分後の14.4±4.3msと変化しなかった。心尖部側でERP短縮が消失しなかった13個所では、ERP短縮の度合は、冠動脈結紮前は12.4±2.1ms、結紮180分後は10.0±4.6msと有意な変化を示さなかった。 以上より、貫壁性虚血が生じると、心尖部側の健常心筋で交感神経刺激による不応期短縮が失われる。この除神経は虚血発生後30分以内に出現しはじめ、その範囲が不均一に拡大して行く。交感神経の不均一な除神経は不応期の不均一性をもたらし、心筋虚血発作急性期の心室性不整脈発現に関与していると考えられる。
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