麻酔開胸犬を用い、左冠動脈前下行枝対角枝を結紮し心筋虚血を作成した。両側交感神経(ansae subclaviae)刺激による心室不応期の短縮の程度、両側迷走神栽刺激による心室不応期の延長の程度を、虚血部より心基部側および心尖部側の健常心筋で、虚血作成3時間後まで経過を追い、両神経系の支配の遮断(除神経)出現の時間経過および分布を検討した。交感神経の除神経:貫壁性心筋虚血が作成された6頭の犬では、虚血作成後30分までに心尖部の24箇所中2箇所で不応期短縮が消失し、その後3時間までに合計10箇所(42%)と、交感神経の除神経は徐々にかつ不均一に進行した。心基部側の15箇所では交感神経刺激による不応期短縮の度合は、虚血作成後3時間に亘って減響しなかった。除神経が生じなかった心尖部側の13箇所では、虚血作成後も不応期短縮の度合は減少しなかった。周走神経の除神経:対角枝結紮により心筋虚血が9頭の犬で作成された。心基部側17箇所の部位では、周走神経刺激による心室不応起は延長の程度は虚血作成3時間後まで減少しなかった。心尖部側では、虚血作成後30分までに1箇所(3%)で不応期延長が消失し、その後3時間までに合計8箇所(23%)と、周走神経の除神経は交換神経の場合と同様徐々にかつ不均一に進行した。残りの27箇所の心尖部側の試験部位では不応期延長は減少しなかった。 以上より、急性心筋虚血発症後、虚血部より心尖部側の健常心筋で交感神経および迷走神経刺激による不応期の変化が消失する(除神経)ことが示された。この除神経は虚血発生後5〜30分という急性期より出現し始め、その範囲が不均一に拡大して行く。この布均一な除神経のため心室不応期にも不均一性が生じ、心筋梗塞急性期の心室性不整脈発現に関与していることが推測された。
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