研究概要 |
レニン・アニジオテンシン系(RーA)の活性化は腎傍糸球体細胞(JG細胞)から血中へのレニン分泌量によって規定される。本年度はレニン阻害剤投与時の血中レニン分泌量の変化について腎レニン生合成量と比較検討した。レニン阻害剤としては昨年度と同じESー1005を用いた。実験動物としては生後1才の食塩制限下マ-モゼットを用いた。血中レニン濃度はヒト活性型レニンに対するモノクロナ-ル抗体を用いラジオイム/アッセイ法で測定した。腎レニンmRNAは昨年度と同じ方法で測定した。マ-モゼットに1週間ESー1005(48mg/kg/日,腹腔内に侵透圧ミニポンプで注入)を持続投与すると血圧は有意に下降(平均血圧で20mmHg下降)し、血漿レニン活性は完全に抑制された。腎レニンmRNAは対照群の約50%と有意に減少したが、血中レニン濃度は対照の約2倍と有意に上昇していた。今日、R-A系を抑制する薬剤としてACE阻害剤が広く高血圧の治療に用いられている。動物にACE阻害剤を投与すると、腎レニン生合成、レニンの腎から血中への分泌がともに促進されることが報告されている。しかしながら、ACE阻害剤はアンジオランシンII生成阻害のみならず、ブラジキニンやサブスタンスPの分解をも抑制する。従って、ACE阻害剤はRーA系のみを特異的に遮断する薬剤ではない。これに対して、レニン阻害剤はRーA系に特異的に作用する薬剤である。従って、RーA系を特異的に1週間阻害すると腎から血中へのレニン分泌は亢進するが、腎内でのレニン生合成は抑制されていることを明らかにした。 以上の成績から、レニンの腎内における生合成と血中への分泌に対する調節機序はお互いに独立しており、レニン生成と分泌は必ずしも平行して増減せずに、各々異なった調節機序が存在することを明らかにした。
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