小児剖検心におけるANPの発現について検討した。 対象:川崎病剖検例28例で、年齢3ケ月から12歳の男児17例、女児11例である。28例中4例には冠動脈瘤がなかった。そのうち3例は、急性期に心筋炎で死亡した。他の1例は陳旧期に細菌性敗血症で死亡した。冠動脈瘤のあった24例のうち、11例が急性期に閉塞性冠動脈疾患又は冠動脈瘤破裂で死亡した。陳旧期に死亡した13例は、3例が急性心筋梗塞後、肉芽期に心不全が持続して死亡、6例が陳旧性心筋梗塞があって突然死、4例が陳旧性心筋梗塞があり心不全が持続して死亡した。コントロールは、川崎病の既往および心疾患のない、年齢6ケ月から2歳の男児5例、女児5例計10例の剖検心である。 方法:左右心房、左右心耳、左右心室、中隔、刺激伝導系をホルマリン固定後、パラフィン包埋し、4μmの薄切切片を作製、 (刺激伝導系は4μmの連続切片を作製)、ヘマトキシリン・エオジン染色、マツソン・トリクローム染色およびヒトANPのモノクロナール抗体をもちいて間接法でANPの染色を行った。ヒトANPのモノクロナール抗体はヒト剖検心よりANPを抽出、マウスを用いて作製した。 結果:ANP陽性細胞をANP顆粒の程度によりGRADE1-4に分類した。心房には全例GRADE4のANP陽性心筋細胞がみられた。心室では、冠動脈瘤のない死亡例では、コントロール同様、左心内膜下の一部にGRADE 1のANP陽性心筋細胞がみられた。冠動脈瘤があり、冠動脈疾患で死亡した症例では、急性心筋梗塞で、凝固壊死、収縮帯壊死のみられる時期にはANP陽性細胞はみられないが、肉芽組織以降、全例で梗塞周辺にANP陽性細胞が発現し、陳旧期心不全が持続した症例ではANP陽性心筋細胞の発現は広範であった。ANP発現は2次的適応現象と思われる。
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