今年度の研究結果については以下のごとくであった。 1.慢性肝炎の中でも活動性が強い患者の肝組織について、molecular cloningを実施したところ、数例においてrearraingementが認められ、HBVの感染とintegrationの進行にともない、細胞側遺伝子についても変化が生じていることが推測された。 2.15才〜20才のHBVキャリアについて調べてみると、無症候性あるいは肝機能異常が軽度で組織学的にも炎症が軽い症例で、HBe抗体が出現している例ではHBV-DNAの組み込みは認められなかった。このことから、ウイルスDNAのintegrationはすべての例で継続するわけではなく、ウイルス量の減少にともない徐々に組み込みが消失する症例が多いことを示唆している。 3.以上の1〜2の結果から、小児期から成人にいたる時期に、慢性肝炎が持続する症例や、肝癌多発家系などでは、病理組織学的変化とともにHBV-DNAの組み込みパタ-ンについて、分子生物学的に追求することから、肝癌発癌の危険因子をさぐることが可能と思われた。 4.小児のHBVの関与した肝癌には、HBV-DNAの組み込みパタ-ンのmolecular cloningによる解析の結果、heterogeneousなpopulationのまま癌化した症例と、成人と同様にmonoclonalな細胞増殖の示し癌化した症例とがあることが判明した。
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