Adenosine deaminase(ADA)欠損シミュレ-ションとして、deoxycoformycineによりADAを阻害したヒト抹消血リンパ球(PBL)を用いて、deoxyadenosine(dAdo)のリンパ球障害性の研究を継続し、ADA欠損症の病態を解明しようとしてきた。前年度は、培養系へのdAdoの添加によりresting lymphocyteにおいても相当量のdATPが細胞内に蓄積され、デオキシヌクレオチド・プ-ルのバランスが崩れることにより、DNA障害がもたらされることをtime courseの検討から明らかにした。本年度の新たな知見; 1.他のデオキシヌクレオチド(dN)は、いずれの1種類のdNをdAdoと同時に細胞培養系に添加しても、dAdoのDNA障害性を抑制する。 2.dAdoによりもたらされたDNA strand breakは、同様に培養液中のdAdoを他のdNへ置換することによって促進的に修復される。 3.dAdo毒性からのそれらdNの細胞防御作用とデオキシヌクレオチド・プ-ルの変化の関係については、deoxycytidineを除いてdATPの蓄積を阻害することによるものでなく、dATPのdegradationを促進させることによるものでもなかった。以上、抹消リンパ球のDNA修復の調節には、少なくとも2種類のデオキシヌクレオチドの細胞内バランスが関与していることが伺われた。 4.ADA欠損ではin vivoにおいてもin vitroにおいてもB細胞がT細胞に比べ比較的抵抗性である。扁桃リンパ球(B細胞)とPBLの比較研究では、B細胞ではdAdo添加後のdATPの蓄積は少なく、DNA障害も軽微であった。B細胞の抵抗性を裏付けると考えられる。 5.各種のDNA修復阻害剤に対するPBLの感受性の検討では、DNA polymerase阻害剤によって最も強くDNA障害がもたらされた。なかでも10μMのdAdoは同濃度のAraCよりも強いDNA障害性を示した。dAdoによるDNA障害の機序を推定しえた。
|