先天性高乳酸血症の大部分の症例においては病因である欠損酵素が不明であり、多くの本症患者は乳児期に死亡したり、生存しても精神運動発達遅延や成長障害を伴う。このように先天性高乳酸血症は小児科医が苦慮している疾患の一つである。したがって先天性高乳酸血症の病因を一つでも多く解明し、治療に結びつけることは重要な研究課題である。そこで我々は培養皮膚線維芽細胞を用いてピルビン酸代謝異常のスクリーニング法の確立を試み、以下の研究成果をえた。 (1)(1-^<14>C)ピルビン酸と乳酸酸化酵素とを用いて培養皮膚線維芽細胞におけるピルビン酸からの乳酸産生能の測定法を新しく確立した。 (2)ピルビン酸脱水素酵素(PDH)欠損症1例、PDH活性化障害3例、ピルビン酸のミトコンドリア膜輸送障害1例、マルチプルカルボキシラーゼ欠損症1例、複合体I欠損症1例、複合体IV欠損症1例の培養皮膚線維芽細胞において(1-^<14>C)ピルビン酸脱炭酸能は低下し、本研究で新しく確立した方法で測定した乳酸産生能は亢進していた。しかし両測定値は対照値とかなり重複していた。 (3)一方、乳酸産生能/ピルビン酸脱炭酸能比はピルビン酸代謝異常細胞において明らかに高値を示し、この比により異常細胞と対照細胞とをより明確に区別しえた。 以上の結果から培養皮膚線維芽細胞の乳酸産生能/ピルビン酸脱炭酸能比の測定はピルビン酸代謝異常のスクリーニング法として有用と考えられた。来年度は本年度確立したスクリーニング法を用いて原因不明の先天性高乳酸血症の多数の培養皮膚線維芽細胞についてピルビン酸代謝異常をスクリーニングし、その病因を明らかにしたい。
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