本研究の目的は痙攣の病態における神経伝達物質の動態を形態学的に追究することであった。本研究では神経伝達物質として、すでに研究代表者によってその免疫組織化学法が確立されているセロトニンをとりあげ、疫攣重積状態の実験モデルとして高温負荷による疫攣マウスおよびピロカルピン(コリンのアゴンスト)投与による疫攣マウスを用いた。セロトニンニュ-ロン系の動態を組織化学的により客観的に評価するために、MOPシステムを利用した画像解析を導入し、セロトニン線維の分布密度について統計学的に検討した。この結果、下記のように線条体において著しい変化がみられた。 1.対照群のマウスの線条体で、セロトニン線維が不均一に分布する。 2.高温負荷により、尾側部を除く線条体でセロトニン線維の増加(セロトニン免疫染色性の増強)がみられる(p<0.01)。 3.高温負荷による疫攣群では、線条体のすべての領域で、セロトニン免疫染色性の著減が認められ(p<0.01)、対照群の20〜30%に減少する。 4.ピロカルピン投与による痙攣群でも、セロトニン免疫染色性は吻側および尾側の線条体で減少するが、減少の程度は高温負荷による疫攣群の方が有意に著しい(p<0.01)。 5.一方、高温群、高温負荷による痙攣群、ピロカルピン投与による疫攣群の新皮質におけるセロトニン免疫染色性には、対照群と比較して有意差を認めない。 以上より、痙攣の病態には線条体が大きな役割を有していること、さらに線条体における分布密度が低く余り注目されていなかったセロトニンが、高温にともなう痙攣(臨床的には脳症、てんかん、熱性痙攣)において重要な機能をはたしている可能性が示唆された。
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