研究概要 |
肝細胞癌に対する術前肝動脈塞栓術を集学的療法のひとつとして採用しているが、この長期結果にもとずいた臨床的評価は確立されていない。そこで、肝動脈塞栓術に肝切除を行った症例の追跡調査を行い、これらの症例の予後と切除肝の病理学的所見の関連性および、塞栓物質・塞栓効果と再発様式の関係を検討した。対象は、1980年末から抗癌剤を動注後ゼルフォーム細片を用いた肝動脈塞栓術後肝切除を行った21例である。検討に関しては、切除肝の病理組織家から2群に分けて患者予後の追跡調査を行った。 第一群は癌細胞が被膜を含めて主腫瘍に限局している症例 第二群は肝内転移あるいは門脈内腫瘍栓を伴っている症例 肝内転移の有無から見た5年生存率は第1群で53.8%、第2群で12.5%と有意差が認められた。次に、門脈内腫瘍栓を認めた症例では、2年で累積生存率は0となり、門脈内腫瘍栓の有無から見た1年生存率は第1群で88.2%、第2群で25,0%となり、両者の間に有意差を認めた。術前肝動脈塞栓術の目的は主腫瘍の縮小と肝内転移あるいは門脈内腫瘍栓を制御し、第2群の予後を第1群に近付けることであったが切除肝の病理組織学的検討からも予想されていたように第2群の予後は第一群に比較し不良であった。これは、本法の術前療法としての限界を示し、塞栓方法の改良の必要性を示唆するものであった。 そこで、1983年より末梢塞栓物質として制癌剤を混和したりリピオドールを使用し塞栓術を行っている。しかし従来のゼルフォームのみの塞栓術の結果と比較して、予後に関する統計的な差異は見られなかった。これは、いまだ観察期間が短く、症例数も少ないことに起因する可能性もあるので今後の検討が必要である。
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