放射線に対する培養細胞の反応については、Elkindその他により詳細な研究が行なわれており、放射線照射を受けた細胞は亜致死障害(SLD)と潜在的致死障害(PLD)を修復する能力を有していることが知られている。しかし放射線の多分割照射を行った細胞では、細胞生残率は理論値よりも除々に低下するとの報告もあり、また全体的に細胞の多分割照射の影響についての解析は極めて少ないのが現状である。また近年、臨床の放射線治療においては、ハイパ-フラクショネ-ションといった多分割放射線治療法も取り入れられ、細胞レベルで多分割照射の放射線生物学的知見を得ることは非常に重要と考えられる。そこで我々は1日2回の多分割照射の影響を、放射線障害の回復能に着目して検討した。用いた細胞はC3Hマウス由来の10T1/2細胞である。実験はすべてプラト-期10T1/2細胞を用いた。プラト-期10T1/2細胞は殆んどの細胞がG_1期で停止しており、細胞周期の進行の影響を除外して多分割照射の影響を観察することが可能であること、そして細胞周期の進行の殆んど見られない正常組織のin vitroモデルとも成り得ることなどの利点がある。 プラト-期10T1/2細胞に6時間のインタ-バルで2.5Gyを1日2回照射を行うと、実際の細胞生残率は2.5Gy1回照射から計算された理論上の生残率と3回照射までは一致していたが、分割照射回数が増えるに従い、しだいに生残率は理論値よりも低値を示した。このことから分割回数が回を重ねるに従い、細胞の放射線障害からの回復能は低下することが考えられる。そこで多分割照射を受けた細胞のSLD修復、slow typeとfast typeのPLD修復能力を未照射のコントロ-ル細胞と比較したところ、slow typeのPLD修復能力のみがコントロ-ルに比較して低下しており、この事が多分割照射した細胞の生残率が理論値よりも低下した原因の一つであると考えられる。
|