本研究は状況の異なる腫瘍のイムノシンチグラフィを通して、腫瘍組織の生化学的、免疫学的特異性を個々に明らかにすることを目的としている。ヒトの腫瘍を植えつけたヌードマウスに^<125>I標識したモノクローナル抗体を投与する系を用い、以下のような結果を得た。1.腫瘍から分泌する抗原は投与抗体と結合体を作り、抗体の腫瘍への到達を妨げたり、血中でのクリアランスを遅くする。結合体の一部は生体内で小分子量のたん白質に分解し、主に肝、脾臓に非特異的に集積することがある。結合体の安定性は抗体の性質、分泌抗原の代謝速度に左右されている。例えば、IgM型の抗体は投与後、比較的不安定である傾向がある。2.抗原を血中に分泌する腫瘍であっても、投与抗体と腫瘍内の抗原との結合が充分速かであれば、或いは、血中抗原の消失速度が速い場合には、抗原と抗体との結合体はシンチグラフィの鮮明度には影響を与えない。3.その結果、抗原を血中に分泌するタイプの腫瘍は小さい方が比較的鮮明に見えることがある。4.同一の抗原を認識する抗体を用いた場合には、腫瘍細胞の膜に存在する抗原を認識する抗体の方が、腫瘍細胞質内に存在する抗原を認識する抗体よりも腫瘍組織に多く取りこまれる。以上の諸結果より、当研究の目的とするイムノシンチグラフィに適した「腫瘍ー抗体の組合せ」としては血中に抗原を分泌しない、又は、分泌しても比較的代謝速度の速い腫瘍に対して、腫瘍細胞の表面に存在する抗原を認識する抗体を用いるという第一義的結論を得た。 これ等の結果を元に、次は同様の腫瘍組織を用いて、薬剤処置を行い、分泌される抗原量、細胞表面に存在する抗原の量、質を変化させ、イムノシンチグラム、抗体の体内分布、腫瘍の免疫学的性質にどのような影響を与えるかを検討していく予定である。
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