腫瘍移植部位に前もって照射を行なった後、腫瘍細胞を移植すると、非照射部位の腫瘍に比べて、増殖が遅延する場合と変化を受けない場合があった。一般に、乳癌は前照射の影響で腫瘍の増殖は著しく遷延したが、線維肉腫の増殖は修飾されなかった。その理として線維肉腫細胞には、間質より腫瘍内への血管形成を促進する刺激作用が存在すると推測される。この作用は致死線量を照射した線維肉腫細胞を、生きた乳癌細胞と混和して前照射部位に移植すると、乳癌の出現速度と腫瘍の増殖速度が修飾され、乳癌細胞を単独で移植した場合に比べて、腫瘍の出現までの期間が短縮し、増殖が促進されることにより確認された。 前照射部位に移植した腫瘍を、放射線や化学療法剤で治療した場合、腫瘍の縮小効果は正常組織に移植した腫瘍に比べて著明で、再増殖が遷延した。しかし治癒率で比較すると、前照射部位に移植した腫瘍の治癒は著しく低下した。この両者の矛盾する結果は、前照射部位における腫瘍細胞の増殖遅延と、治療により死んだ細胞の消失速度のバランスより説明できる。 照射部位における腫瘍からの自然肺転移は、正常組織にある腫瘍より小さな腫瘍サイズで発生していた。これは、照射部位にある腫瘍は発育が遅延するため、正常組織に存在する腫瘍と同一サイズに達するまでに長期間が経過して、腫瘍より血中に流入する癌細胞の総数が多くなり、転移を発生する機会が多くなったためと考えられる。 以上の3点が照射部位に存在する腫瘍と、正常組織に存在する腫瘍の差異と考えられる。これらの問題が、臨床上の治療に何如に関与するかについて考察した。
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