アルコ-ル依存症解明のためアルデヒド代謝に関与する酵素の性状を遺伝的、生化学的にとらえ遺伝マ-カ-を検索した結果次の成果があった。 1)ヒト唾液ALDH-V型の新しい多型 従来我々が報告したALDH-I、II、III、IVのアイソザイムと異なる新しいアイソザイムがヒト唾液中に発見された。このアイソザイムのP^I、km値サブユニットの分子量などに関する生化学性状はこれまで報告されたものとは異なっており、特異的抗血清もALDH-I、II、III、IVとは反応しなかった。またアイソザイム変異型が遺伝性のものであるか確かめるために15組の双生児家族試料を用いて検索した結果、少なくとも2種類の対立遺伝子により支配されていることが判明した。また活性を示さないタイプは一般集団よりアルコ-ル依存症患者に有意に低く(p<0.01)検出されたことより、アルコ-ル依存症の新しいマ-カ-となることが判明した。 2)ミトコンドリアALDHの遺伝子型とアセトアルデヒド代謝 ミトコンドリアに含まれるALDH_2型遺伝子の変異型を最新の分子生物学技術を用いて41人の健常日本人および50名のアルコ-ル依存症患者についてタイピングする一方、その遺伝子頻度の出現の相異を調べた結果ALDH_2遺伝子はアルコ-ル依存症患者に有意に高い(p<0.01)値を示したので、この遺伝子型はアルコ-ル乱用のマ-カ-として有用なことがわかった。 特に健常者に対し、アルコ-ル負荷テスト(1mlウイスキ-/kg・体重)を行った結果、ALDH_2の遺伝子表現型の種類により、異なったアセトアルデヒド代謝能を示した。すなわちALDH^1_2/ALDH^1_2の固体は4.9±1.7μMであるのに対し、ALDH^1_2/ALDH^2_2型は24.6±8.4μM、ALDH^2_2/ALDH^2_2型は71.6±32.3μMとなり、ALDH^2_2をホモ接合型でもつ固体は最も高いアセトアルデヒド血中濃度を示し飲酒後の生体反応も顕著であった。
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