研究概要 |
老年期痴呆は加齢に伴い増加し、高齢化社会を迎える我国にあって重要な老年期疾患であるが、この時期はヒトのカルシウム代謝にも異常を来たす時期に一致する。高齢者のカルシウム代謝においては男女差が知られているため、今回は老年女子60名(79±7才、範囲63-94才)につき、老年期痴呆へのカルシウム代謝調節因子の関与につき検討を加えた。痴呆の程度は長谷川式簡易痴呆スケ-ルにより評価し、22〜32.5点の非痴呆群(18例)と0〜21.5点の痴呆・前痴呆群に大別し、後群は虚血スコアによりアルツハイマ-型痴呆群(22例)と脳血管性痴呆群(20例)に分類した。これら3群において平均年齢(各78±6、81±7、80±8才)に有意差は無かった。非痴呆群に比し、アルツハイマ-型痴呆群では血中カルシウム値の有意(p<0.01)の低値、血中副甲状ホルモン値の有意(p<0.05)の高値、尿中カルシウム排泄量の有意(p<0.01)の高値および血中1,25-ジヒドロキシンビタミンDの低値傾向を示した。また非痴呆群とアルツハイマ-型痴呆群を合わせた群において長谷川式簡易痴呆スケ-ルの得点と血中カルシウム、1,25-ジヒドロキシンビタミンD値は有意(p<0.05)の負の相関を示した。このことは、老年期痴呆例のうちアルツハイマ-型老年期痴呆群においては、活性型ビタミンD低下によると考えられるカルシウム欠乏状態が存在し、二次性の副甲状腺機能亢進状態にあり、これらのカルシウム代謝異常が本症の病態に関与していると考えられた。一方、脳血管性痴呆群では、これらの異常を認めなかったが、非痴呆群と比較して血中カルシトニンの低値傾向を認めた。カルシトニンには抗動脈硬化作用も知られており、脳血管性痴呆の病態には、血中カルシトニン濃度の低下が関与している可能性が考えられた。これらのカルシウム代謝異常の改善により老年期痴呆発症・進展の予防の可能性が期待される。
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