研究概要 |
われわれは61〜62年度の研究において抗うつ薬がβ_1受容体数には影響することなく直接cAMPの産生を抑制する可能性を明らかにした。しかし、その際抗うつ薬は細胞の中に蓄積する可能性があり、従ってin vitroの系で実験を行う場合に用いる濃度の検討が重要であることが指摘された。そこで63〜平成1年度の研究計画では1)抗うつ薬のcAMP産生抑制は抗うつ薬に特異的か否かを明らかにする2)in vitroの系で実験を行う場合に至適な抗うつ薬の濃度を決定することを研究目的とした。 C_6glioma cellを三環系抗うつ薬の一種であるデシプラミン(DMI)あるいは抗精神病薬の一種であるハロペリド-ル(HAL)存在下で4日間培養した後にイソプロテレノ-ル刺激によるcAMPの蓄積を測定した。その結果、DMI、HAL共に10μMの濃度ではイソプロテレノ-ル刺激によるcAMPの蓄積が低下するが、1μM,0.1μMの濃度では変化がないことが明らかとなった。次に、C_6glioma cellをDMI存在下で培養し、細胞内平均DMI濃度を高速液体クロマトグラフィ-を用いて測定した。その結果を動物実験やヒトの死後脳で報告されている脳内DMI濃度の値と比較した。その結果、細胞内平均DMI濃度は、細胞外の約50〜60倍に達することが明らかになった。培養細胞を用いて抗うつ薬の薬理作用を調べたこれまでの報告では、培養液中に1〜10μMの抗うつ薬を添加したものが多いが、その場合、細胞内濃度は50μM〜0.5mMに達することになり、薬理学的濃度をはるかに越えるものであることが明らかとなった。また、10μMのDMI存在下で培養すると、細胞の蛋白量が低下し、ATPの量も減少することが明らかとなった。以上より、1)10μMで得られた結果は非特異的なものであること,2)in vitroの実験に用いる濃度は1μM以下が適当であることが明らかとなった。
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