インスリンレセプター異常症の中でインスリン結合能が正常な型(TypeC)はそのレセプター内のシグナル伝達機構かそれ以後の障害によって発症するものと推定される。今回家族性インスリンレセプター異常症TypeCの一家系につきインスリンレセプター遺伝子の解析を行った。症例は17才女性、インスリン抵抗性糖尿病、黒色売皮腫、多毛、低身長を認めた。家系内に母親、母方叔父、母方祖父に低身長とインスリン抵抗性糖尿病があり、常染色体優性遺伝を示した。赤血球、培養皮膚線維芽細胞のインスリン結合能は発端者、母親共に正常であったが、部分精製インスリンレセプターの自己燐酸化能は両者共低下がみられた。そこで症例の末梢白血球のDNAをBglIIで切断し、EMBL3のBamHI部位に組み込み、ライブラリーを作製した。キナーゼ部位に相当するヒトインスリンレセプターcDNAをプローブとしてスクリーニングし、得た遺伝子をpUC11gにサブクローニングした。その結果13Kbと23Kbの二種類の遺伝子をクローニングし、制限酵素地図を作製、塩基配列を決定した。その結果、両DNA断片は、5'側BalII部位から約9Kb下流のBamHI部位より3'側がまったく異なっており、キナーゼドメインをコードしているエクソンの途中からATP結合部位(1030Lys)を含めて欠失が生じていた。又RFLP(Rus-triction Fragment Leng状 Polymerphism)の解析により、この欠失遺伝子は同じ臨床症状を示す母親から伝わっていることが明らかとなった。すなわち、このキナーゼドメイン欠失遺伝子から合成されるインスリン受容体は、キナーゼ活性を持たないことが推定され、この症例はインスリンのシグナル伝達がインスリンレセプターキナーゼレベルで障害され発症したものと思われた。
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