我々は本研究の中心的成果として加令に伴って膵B細胞からのインスリン分泌が遅延する事を明らかにした。この遅延は、1)グルコース刺激時にのみ認められ、アミノ酸刺激や膜の脱分極によりインスリン分泌を生ぜしめた際には認められない事、2)細胞内遊離カルシウム([Ca^<2+>]i)の上昇の遅延を伴わない事、3)グルコースによる2相性のインスリン分泌のうち第1相にのみ起る事、4)B細胞内インスリン含量の点では加令によってむしろインスリン含量の増加した状態でインスリン分泌が遅延している事、などをもあわせて明らかにした。従って細胞内情報伝達機構という観点からみると、加令による障害はグルコースによる第1相分泌に特異的なステップでの障害によって起る事、更には[Ca^<2+>]i上昇以降のステップ又はこれと別のステップでの障害である事、インスリン分泌の最終ステップである開口分泌そのもの障害ではない事、などの解釈が妥当である。こうした加令によるインスリン分泌の遅延がグルコースに特異的である事や、糖尿病に際して早期に分泌の低下がおこる第1相に限定している事などは、我々の見出した異常が成人発症型糖尿病の発症とも関連している可能性を示唆している。本研究の別の成果として我々はGTP結合蛋白(G蛋白)の活性化をおこした時に起るインスリン分泌の増強を正常ラ氏島を用いて初めて明らかにし、又、インスリン分泌の調節上重要な機能調節因子である電位依存性Ca^<2+>チャンネル(VDCC)の薬理学的な性質の解明にも成功した。従って来年度はこれらの成果を加令ラットのB細胞に応用する事により、G蛋白、VDCCのレベルでの加令の影響を解明してゆく予定である。
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