腎糸球体メサンギウム細胞はアンジオテンシンIIなどの血管作動性物質に対する収縮能を有し、糸球体濾過値の調節に重要な細胞であると共に、糖尿病性腎症の発症に深く関与する細胞であると考えられている。 近年、糖尿病性腎症初期の腎内血行動態の変化に腎内局所レニンーアンジオテンシン系が関与していると考えられ、またメサンギウム細胞自体がレニンを分泌しているとも報告されている(Chansel et al)。そこで本研究は糖尿病状態における腎内レニンーアンジオテンシン系の変化を検討することを主目的とし、本年度は糖尿病ラット腎組織中のアンジオテンシン変換酵素(ACE)活性の測定、培養糸球体メサンギウム細胞(M細胞)の中のACE活性の測定、及び同細胞におけるレニン・アンジオテンシノーゲンmRNAの測定を行った。 糖尿病ラットはストレプトゾトシン静注により作成し、14日目に実験に供した。M細胞は既報のごとく培養し、種々の継代数の細胞を用いた。ACE活性はHipーHisーLeuを基質にし、生ずる馬尿酸をHPLCで測定することにより定量した。レニン・アンジオテンシノーゲンmRNAは、M細胞より単離したtotal RNAを電気泳動後ナイロン紙に移し(Northern transfer)^<32>Pでラベルしたprobeとのhybridizationを行うことにより検討した。ACE活性は糖尿病ラットで正常ラットに比し腎皮質外層・皮質内層及び髄質共に有意に低下していた。しかし、M細胞にはACE活性、レニン・アンジオテンシノーゲンmRNAはいずれも検出されなかった。これらの結果は糖尿病初期に腎内レニン・アンジオテンシン系が低下し、腎内血行動態の変化を来している可能性を示唆しているが、メサンギウム細胞はそのeffectorとしてのみ働いていると推察される。M細胞のレニンに関するChanselらの結果はなんらかのcontaminationによる可能性が強いが、次年度さらに検討する予定である。
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