研究概要 |
上皮細胞増殖因子(EGF)は細胞膜に存在するレセプターと結合後細胞内に入り、その蛋白チロヂンキナーゼ活性を介してDNA合成開始シグナルを転送すると考えられているが、キナーゼの細胞内基質や燐酸化された蛋白の核内遺伝子との相互作用については全く解明されていない。本年度の研究の概要は上記の点の解明の一助として、増殖中の肝細胞におけるEGFレセプターのリガンド結合能、自己燐酸化能とチロヂンキナーゼ活性との関連について研究した。得られた結果は以下の通りである。1.ラット精製核には細胞膜と性状の異なる^<125>I-EGFに対する高親和性結合部位が存在する。その部位は温度によるリガンド結合キネティクスの異ること、自己燐酸化能を示さないことならびに動物肝部分切除後の再生中の肝における挙動の異なることから核分画への細胞膜の汚染によるものでないことを確認した。増殖中の肝(胎仔肝、新生仔肝、再生肝)では細胞膜結合部位は低下したが核の結合部位数は有意に増加した。2.増殖中の肝細胞膜EGFレセプターの自己燐酸化能はそのリガンド結合能を基準として比較した場合、正常成熟ラット肝のそれに比し高くその反面EGF添加による燐酸化の上昇は軽度であった。3.可溶化した細胞膜中のチロヂンキナーゼ活性は人工合成ペプチド(GAT、6:3:1、Mr43,000)を基質として場合成熟ラット肝と増殖中の肝の活性はほとんど同じ活性を示したが、成熟ラット肝の活性は0.25Mの(NH_4)_2SO_4により著明に抑制され、EGFの添加はその大部分の活性を回復させたが胎仔、新生仔肝の活性はこのような変動を全く示さなかった。今後EGFレセプター抗体を用いてのレセプター蛋白自体の変動を測定すること、抗燐酸チロヂン抗体による成熟ならびに新生仔肝の分別その他種々の増殖因子(インスリン、IGF-1、PPGFなど)に対する膜チロヂンキナーゼ活性の応等生の比較を行うことを計画している。
|