研究概要 |
昨年度の検討で生理的に重要なACTH放出因子の一つであるvasopressin(AVP)のmRNAの視床下部室旁核(PVN)や視索上核(SON)での発現が,絶食ストレスにより抑制されることを報告した。今年度はこの抑制にコルチコステロイドの上昇が関与しているか否かを検討する目的で,ラットの両側副腎を摘出して一定量のコルチコステロン(B)を補充した状態で,絶食ストレスのAVPmRNA発現に及ぼす影響を検討した。方法はWistar系雄ラットの両側副腎を摘出後,25%のBペレット100mgを皮下投与し,ラット用食餌と0.5%生理食塩水で3日間飼育した後2群に分け,一群(絶食群)に3日間の絶食ストレスを加えた後に,脳を潅流固定し,SONやPVNニュ-ロンにおけるAVPmRNAの局在及び量的変動を ^<35>S標識合成オリゴヌクレオチドをプロ-ベに用いるin situ hybridization法にて検討した。その結果,3日間の絶食にて対照群に比し体重減少が認められたが,体重補正胸腺重量,血漿B濃度は2群間で有意差を認めなかった。血漿ACTHは両群で高値を示したが,絶食群でより高値が認められた。AVPmRNAのシグナルは,室旁核においては絶食群が対照群に比し有意の増加を示したが,視索上核では有意の減少が認められた。以上のように絶食ストレスはACTH分泌を著明に刺激したが,低レベルの血漿B濃度下では,室旁核のAVPニュ-ロンには刺激的に,視索上核のAVPニュ-ロンには抑制的に作用することが示唆された。したがって絶食ストレスで認められた室旁核のAVPmRNAの発現の抑制にはストレスによる血中Bの上昇が関与していると考えられた。又,ステロイドレベルに関係なく認められた視索上核のAVPmRNAの発現抑制にはその他の機序が考えられた。
|