1.ras癌遺伝子産物P21の免疫組織化学的検討 甲状腺腫瘍においてras p21が増加している可能性がこれまでのウエスタンブロットの検討より示されたので、甲状腺腫瘍のパラフィン固定の組織をもちいて、免疫組織化学的にp21^<ras>の発現を検討した。高分化癌19例(乳頭癌9例、濾胞癌10例)低分化癌(0例(乳頭癌6例、濾胞癌4例)を対象とし、線維芽細胞の1.1細胞を陽性コントロ-ルとし、ras p21のモノクロナ-ル抗体NCC-RAS-001を用いてABC法で染色した。非腫癌部は染色されないが、陽性所見が明らかでないもの(-)が28%、小範囲に染色される(+)が64%、広範囲に染色される(++))が8%であったのに対し、高分化癌では(-)5%(+)39%(++)56%と陽性例が多く、一方、低分化癌になると(-)12%、(+)67%、(++)21%と陽性例は減少した。いずれも乳頭癌、濾胞癌では差を認めなかった。 2.甲状腺培養細胞の細胞内カルシウム濃度の測定 ヒト正常および腫瘍甲状腺単純培養細胞に蛍光カルシウム指示薬fura-2/AMを負荷し、細胞内fura-2の蛍光の変化を顕微測光装置を用いて解析した。正常ヒト甲状腺細胞はわれわれの培養した条件ではTSHには反応しなかったが、細胞外のATPには反応して細胞内カルシウムの一過性の増加をきたした。この反応は百日咳毒素で減弱されることより、Gi蛋白質の関与する機構が存在すると考えられる。この機構は正常甲状腺のみならず、癌細胞にも存在するが、癌ではその反応の程度が種々の変化を示した。しかしras p21の発現の程度とは相関しなかった。一方、正常甲状腺ではTSHで刺激することにより、ATPの反応の増強をみとめたが、ras p21の発現の増強した癌細胞では変化を認めなかった。以上の研究より甲状腺癌でのras p21の発現の程度は細胞の分化度に関連し、細胞機能に大きな変化をあたえていると想定された。
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