1.甲状腺癌のp21^<ras>と細胞機能の関連 手術で摘出された甲状腺癌と周囲の正常甲状腺組織におけるras p21の量をラスに対する特異的抗体(NCCーRASー001)を用い免疫組織化学的に検討したところ、甲状腺癌で染色性が増加していた。この結果は前年度報告したウエスタンブロットの結果と一致している。また同一組織を用いた検討より細胞膜のp21^<ras>が増加しているとTSH反応性が増加することが明らかとなった。そこで甲状腺細胞でp21^<ras>を増加させることを考えたが、正常のras遺伝子の発現を増加させる実験系が今回は作成できなかったので、活性型ras遺伝子の導入を試みた。 単層培養5日目のヒト甲状腺細胞にCherーOkayama法で活性型ラス遺伝子を組み込んだプラスミドDNAを導入し、ネオマイシンで形質転換した細胞を選択し、活性型ras遺伝子の導入された細胞を得た。 この形質転換細胞をTSH添加、非添加で培養し、機能を検討した。導入前の細胞は0.1mV/ml TSH添加により培養液中のcAMPは10.8倍の増加を示し、 ^<125>IーEGFの特異結合も2.1倍に増加した。一方活性型ras遺伝子導入細胞ではcAMPは3.8倍の増加で、EGFの特異的結合はTSH刺激で増加せず、ヒト甲状腺癌に類似した細胞機能に変化した。 2.甲状腺髄様癌細胞での検討 ヒト甲状腺のもう一つの細胞であるC細胞由来の継代培養細胞株TT細胞を入手出来たので、この細胞を用いて同様の検討をおこなっている。現在までにこの細胞にもp21^<ras>が存在すること、カルシトニン分泌にもras遺伝子の関与する可能性が示唆されている。
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