前年度は粘液水腫症患者から得た抹消血リンパ球(Tリンパ球、Bリンパ球)をT_3とincubateし、polyAーRNAのtranslation productの比較によりT_3感受性遺伝子のmRNA特定を行なったが、実験により(症例により)増加すると判定されるSpotが一定せず、また一定したと思われるものも増加巾が小さいこと、得られたmRNAの全体量が少なすぎることなどの結果を得た。そこで甲状腺ホルモンが遺伝子に作用する前の細胞内での変化について検討するとともに、ヒトリンパ球以外にヒト皮膚線維芽細胞について、T_3感受性遺伝子の同定をより改善した方法で行なった。ヒトリンパ球に比して、細胞が均一であること、量を多くすることができること、細胞間作用も均一にできることなどの長所があった。まず某正常人より皮膚切片を得、ヒト皮膚線維芽細胞の継代培養株を作った(Ar_1#_2と命名)。この細胞についてT_3核受容体の親和性と容量を検討したが、肝細胞とほぼ同様の値を得、T_3感受性のある細胞と考えられた。そこで同細胞を大量に培養し、様々な濃度のT_3とincubateした後、凍結することなくGuSCNでDNA、RNAを抽出、比重遠心法、フェノ-ルクラオロフォルム法でRNAを純化し、oligodTカラムでpolyAーRNAを得た。starting materialを多くすることにより約200μgのpolyAーRNAが得られ、T_3存在下、非存在下のもののtranslation productの検討により、約6倍まで増加を示すspotが5〜7個認められた。ヒトリンパ球とは異なり再現性があった。現在selection hybridizationを行なうことでCDNAの特定を行なっている。また、細胞内での甲状腺ホルモンの動態等の研究で様々の培養細胞が甲状腺ホルモンを抱合体形成により細胞外へ出していることが初めてわかったが、Ar_i#_2株はその機構が弱く、甲状腺ホルモン作用を量的にみていくには極めて良い細胞であることが判明した。
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