ヒトの甲状腺ホルモン作用の敏感で特異的な新しい指標を求めるために、ヒト末梢血リンパ球と皮膚線維芽細胞のT_3(活性型甲状腺ホルモン)感受性遺伝子のmRNAの同定を試みた。末梢血リンパ球をB細胞、T細胞とに分け、T_3とincubateし、T_3投与によるmRNAの増加をcDNAのhybridization selectionにより同定しようとした。それに先立ち得られたpolyA-RNAの翻訳産物を二次元電気泳動にかけ、その増減を検討したが、T_3で増加を示す様にみえるspotも症例、実験により一定しないこと、一定するものはあるが増加巾が小さいこと、polyA-RNA全体の収量が少ないことなどの結果が得られ、先に研究を進める前に検討すべきことが出てきた。そこでより均一な細胞で、かつ培養中の細胞間修飾が少ないものとしてヒト皮膚線維芽細胞で同様の検討を行なうとともに、甲状腺ホルモンがT_3感受性遺伝子に作用する前に変化を受ける過程について、また甲状腺ホルモン感受性遺伝子として知られているSpot 14の発現に及ぼす甲状腺ホルモン以外の因子について検討した。正常人から得た皮膚線維芽細胞を継代培養系として確立し、この細胞がT_3核受容体を持つことを確認したあと、T_3とincubateし、増加するmRNAをリンパ球とはほぼ同様な方法で同定した。翻訳産物でみると増加を示すmRNAがみられ、再現性もよいことが判明した。これについてhybridization selectionを行なっている。polyA-RNAの収量も充分であった。また、甲状腺ホルモンの細胞内での動態についての検討で、細胞によっては投与した甲状腺ホルモンが脱ヨ-ド以外に抱合体形成を受け、不活性となり細胞外に出されることが明らかになった。Spot 14の発現は糖代謝産物によっても強い影響を受けていることが判明し、甲状腺ホルモン感受性遺伝子を求める場合、甲状腺ホルモン以外の因子の影響を充分考えておかねばならないことが明らかとなった。
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