本邦では近年人口の急速な高齢化にともない、老年者の脳血管障害の発症頻度が増加し、その予防対策の重要な社会問題になってきた。我々は温泉で有名な草津町で脳梗塞の日内発症頻度を調査し、その発症時間が早朝に集中していることを見い出した。この原因を就寝後の水分摂取停止による血液の濃縮によると推定し、血液粘度の日内変動を検討したところ、それは午前8時を最高値とし、徐々に低下し、午前0時から再び上昇して午前8時に最高値にもどる日内変動を示すことが解った。この成績をもとに夜間から早朝にかけての血液粘度の急激な上昇が脳梗塞発症の引金の一つになるという仮説を既に発表した。今回は就寝前の飲酒との関係に的を絞って研究し、さらに具体的な予防対策としての夜間一回の飲水の影響についても併せて検討した。12名の健康若年者(平均年齢24●±☆3歳)を対象として実験を行った。まず第1日に血液粘度の日内変動を確認した。次に第2日には第1日と同様の生活をさせた他に午後8時にアルコール(ビール1本、約30mlのアルコール)を摂取させ、第1日と同様血液粘度の日内変動を調べた。その結果このアルコール摂取により夜間の尿量の増加を認め、第1日の成績に比べると、午前4時の血液粘度はむしろ低下したが、この後の午前8時までの血液粘度の上昇は極めて高度であった。アルコール摂取時に見られた早朝の血液粘度の急激な変化を緩和する目的で、さらに第3日の実験を行った。第3日には第2日のアルコール摂取に加えて、午前0時に500mlのスポーツ飲料を摂取させた。この飲水により早朝期に見られる血液粘度の急激な変化は十分緩和された。以上の成績から、脳梗塞が早朝起床時に多発する原因の一つに血液粘度の急激な変化の関与が推定され、特に就寝前のアルコール摂取は危険因子の一つであることが解った。さらに予防には夜間の飲水が効果的であることを明らかにすることが出来た。
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