現在までT細胞系腫瘍細胞におけるT細胞受容体β鎖遺伝子の異常再構成の解析と、この事象の細胞腫瘍化との関連を検討してきている。発端となったT細胞性急性リンパ性白血病細胞では、Dβ_1-Jβ_<2.3>結合に際して本来欠損するはずであるこの間に介在する遺伝子領域が6番染色体上に挿入されていることが昨年度までに明らかになっている。この細胞について得られた新しい知見を述べるとともに、T細胞系腫瘍での同様な事象の頻度も検討したので概要を述べる。 1.T細胞性急性リンパ性白血病細胞について この細胞において、T細胞受容体β鎖Cβ_1遺伝子を含む領域は、6番染色体上への挿入に際し、5′側はJβ_<1.2>遺伝子のシグナル配列の部位で再切断され、7塩基の付加を伴って挿入されていた。また3′側はDβ_1-Jβ_<2.3>結合の際に切断された部位がそのまま6番染色体上に結合し、6番染色体上の塩基には欠失などはなかった。以上より、この挿入に遺伝子再構成と同様の機序が関与していたと考えられた。また6番染色体上挿入点近傍には種々の白血病細胞株でmRNAとして発現している遺伝子があることも明らかになった。現在このcDNAについて解析を進めているが、コンピューター解析では塩基配列上、既知遺伝子との相同性は明らかでなく、新しい癌遺伝子である可能性が高い。 2.T細胞系腫瘍における異常再構成の検出 18例のT細胞系腫瘍について6種のプローブを用いてSouthern法を行った。このうち3例に異常再構成を認め、いずれもV-DあるいはD-J結合に際して本来欠失するはずの領域が残存しているものであった。 現在まで得られた知見より、異常再構成が細胞の腫瘍化に関連している可能性は高いと考えられ、また染色体異常のない細胞においてもより広く腫瘍化に関与していると思われる。
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