T細胞抗原レセプター(TcR)に関してα、β、γ鎖遺伝子が明らかにされ、これ等の遺伝子や免疫グロブリン遺伝子を用いたリンパ性増殖疾患における分子遺伝学的解析の有効性が判明してきている。近年、TcRδ鎖遺伝子が発見され、γ鎖に会合して第2のTcRを構成していると報告されている。我々はこれまで悪性リンパ性疾患におけるこの遺伝子のDNAレベルでの解析を施行した。 1.リンパ系幼若細胞と考えられる急性リンパ性白血病とリンパ芽球性リンパ腫の30症例をT系、B系そして非T・B系に分けて検索し次の事が判明している。(1)TcRδ鎖遺伝子はclonalityを調べるうえで有力である。(2)TcR遺伝子再構成は、これまでγ、β、αの順でT細胞の発生学上生ずると考えられているが、これに加えてδ鎖遺伝子の再構成はより幼若な分化段階で生じる。(3)lineageに関しては、このδ鎖遺伝子のみの解析からT細胞系かB細胞系かのlineageの決定はできないが、免疫グロブリン遺伝子や他のTcR遺伝子解析結果と比較すれば有効となる。(4)Tリンパ球は、近年γδ細胞系とαβ細胞系という概念で検討される様になり、このγδ細胞はこれまでの報告では表面形質上CD3+、CD4-、CD8-のダブルネガティブか、CD3+CD4-CD8+を示すと言われている。しかしながら我々は、DNAレベルではこれらの表面形質とは関連ないと云う結論と得ている。 2.成人型T細胞性白血病(ATL)の約40例を検討し、Proviral HTLV-1 DNA陽性の全例にTcRδ鎖遺伝子の欠失を、一方陰性例では胚芽型を示す傾向を認めた。 3.更に非ホジキンTリンパ腫10例、ホジキン病10例、AlLD10例の検討では、各症例間にHeterogeneityを認めている。
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