悪性リンパ性疾患において近年報告されたT細胞抗原受容体(TcR)δ鎖遺伝子を解析し、各疾患における再構成の頻度・その特徴、更にT細胞分化過程における再構製の様式とその意義について検討した。δ鎖再構成には新しいバンド形成と胚芽型バンド欠失の2種類がある。T細胞分化において再構成バンドはγδT細胞系の可能性を示唆し、欠失はαβT細胞系を意味する。ALL/LBLではT系全例にδ鎖再構成バンドを認め、しかもβ・γ鎖胚芽型症例においても陽性を見た。一方、B系の41%に再構成バンドを23%に欠失を認めた。再構成様式よりB系ではVDかDDが、T系ではDD・DJあるいはVDJなどの組替えが生じる事が示唆された。他の疾患別でのδ鎖再構成バンドと欠失頻度は、Tリンパ腫10%と40%・Bリンパ腫7%と9%・AILD20%と40%・骨髄性白血病7%と7%であった。またホジキン氏病とATL/ATLLでは再構成バンド症例はなく、欠失が61%と83%であった。この事よりATL/ATLL・Tリンパ腫、また一部のTリンパ系の腫瘍化と思われたホジキン氏病・AILDはαβT系細胞由来である事が示唆された。一部のBーリンパ腫・骨髄性白血病にδ鎖再構成バンドが見られたがmissprogramと推察した。さらにT細胞株の解析によりαβT細胞系の中にpre-αβT細胞の存在が確認された。以上の事から、1)δ鎖はヒトT細胞発生分化においてTcR中最も早期に再構成を行う。2)その解析は幼若T細胞レベルでの細胞の単一性を証明する唯一の方法である。3)Lineage特異性についてはB-ALL/LBLに高頻度に見られるが、特徴あるδ鎖遺伝子再構成様式より識別でき又IgJH解析を同時に施行する事でlineage判定がより可能である事などが判明した。今後、幼若T細胞性腫瘍や未分化白血病におけるδ鎖遺伝子の詳細な解析は、造血細胞分化とくにT細胞分化の解明に大いに有用であると思われる。
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