研究概要 |
本研究で着目した活性は、ウシ胎児血清(FCS)に見出されヒトBFUーE及びCFUーEのコロニ-形成のみを抑制し、かつ、マウス赤白血病細胞の自発分化を抑制した実験結果から赤血球前駆細胞の分化を特異的に抑制あるいは調節する活性であると示唆されていた。ところが、精製を進めるに従い分化に対する特異的抑制活性は消失し、増殖に対する抑制活性のみが残存した。この事から、我々が粗精製標品を用いて生物学的アッセイによりその存在を指摘した分化抑制活性は単純因子によるものではなく、複数の因子が関与した複雑な機作を反映したものと考えられた。この限定条件下で、生化学的にアプロ-チ可能と思われた増殖抑制活性の精製を試みた。精製手順としては、FCSを出発物質としイオン交換クロマトグラフィ-(DEAE及びリン酸セルロ-ス、QAEーSephadex A25)やゲル濾過(Sephadex G25)等のステップを組み合わせた。活性は分子量(MW)分画によりMW1000〜3000とMW1000以下に二分して検討した。(1)MW1000以上の活性については、分子量的にほぼ均一なペプチドより構成されていた(Protein Pak60カラムを用いたHPLC)。しかし、μ Bondasphere C_<18>カラムでの分析によると、微量成分も含めると十数本のペプチドが検出された。DNA合成に対する効果を検討したところ、高濃度では強い合成阻害が、低濃度では細胞倍加時間の延長作用が観測された。細胞周期解析の結果、S期細胞の減少とG_1及びG_2期細胞の増加が見られたので上記実験結果と矛盾はなかった。しかし、起源が異なる各種ヒト白血病細胞株(K562,MOLT4,NALM16)に対しても、用量依存的な抑制効果が見られたので、lineage specificityは低いと推定された。(2)MW1000以下の活性画分については、精製の目処は立っていない。しかし、濃縮液から単結晶が得られ、その構造中に性質の異なる3〜4種のペプチドが含まれていることが明らかになった。
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