研究概要 |
移植片長期生着の機序に関する研究は、レシピエントの免疫状態の変化に主眼が置かれ、移植片のMHC抗原の膜表現の消長に着目した研究はない。本研究では、移植片のMHC抗原の膜表現を動物実験、臨床の生検材料について検討し、膜表現の消長が移植片生着の機序に影響を与えうるか否かを検討した。 動物実験では、健常ラットとCYA投与ラットの心、腎におけるMHC抗原の膜表現を検討した。CYA投与によって、心の血管内皮細胞のclass I抗原とpolymorphicなモノクロ-ナル抗体によって検出されるclass II抗原の膜表現だけが減弱し、他の細胞の膜表現は変化がなかった。ヒト移植腎生検標本を用いたHLA-DR,DP,DQ抗原の解析では、尿細管上皮にDR,DP抗原が発現している症例の80%以上は、急性拒絶反応と診断してよく、また、正常腎では血管内皮細胞や間質の細胞にはDQ抗原が発現していないが、DQ抗原が発現している症例は、100%急性拒絶反応を示した。術前輸血と尿細管上皮のclassII抗原の発現の関係では、輸血量の多い症例ほど急性拒絶反応から回復したのちも、HLA-DR抗原が強く発現している傾向にあった。3年以上の長期生着例における尿細管上皮classII抗原の発現については、約半数でDR,DP抗原が陽性であった。この原因として、6例中5例に施行したdonor-specific blood transfusionの影響が最も強いものと考えられた。 移植片生着の機序として移植片のMHC抗原の発現消褪を予想して検討したが、発現増強による急性拒絶反応の診断価値と輸血によるMHC抗原発現への影響を推論するにとどまり、発現の消褪による移植片生着延長効果は確認しえなかった。この理由として、免疫染色の定量化には限界があること、HLA抗原に対するpolymorphicな抗体が少ないことがあげられる。
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