水分・電解質の調節は個体の生命維持にとって基本的な問題であり、その制御機構を理解することは各種外科侵襲下の病態解明と治療に不可欠である。われわれは既に外科侵襲下では血中ANPの変動がみとめられることを報告してきたが今回は外科侵襲下におけるANPの生理作用と薬理作用について検討した。 IANPの生理作用:metabolic cageにて飼育したラットに、外科的侵襲として30%熱傷を作製し頚静脈よりカテーテルを挿入し中心静脈圧をモニターしながら投与輸液量を一定にすると熱傷後1日目には尿量の低下、CVP圧の低下が認められたが2日目にもとに回復した。そこでANPを測定すると2日目にピークが認められたので、熱傷後24時間後に抗ANP抗体を投与し血中ANPを中和したところその後24時間の尿は正常家兎血清を投与した対照群に比較して有意に尿量の低下が認められた。このことは外科侵襲によって上昇したANPが生理作用を有していることを示している。II ANPの薬理作用:ラットに内頸静脈よりカテーテルを挿入し、A群Endotoxin(ET)40mg/kgをbolusに静注B群ET40mg/kgをbolusに静注しANP/μg/kg/minを3時間持続静注C群ET投与後ANP10μg/kgをbolusに静注する3群に分けて、それぞれ12時間後の生存率、尿量、肺腫重量を検討した。12時間後の生存率はA群11.1%、B群66.7%、C群40%とANPを投与した群で明らかに生存率が上昇していた。尿量は3群ともET非投与した群で明らかに生存率が上昇していた。尿量は3群ともET非投与群に比較し有意に低下していたが、3群間では有意差はなかった。肺臓の重量をリヒター法でA群とB群について比較検討するとA群は0.5968±0.0914(M±SD)g/100g.b.w.B群は0.5180±0.0505g/100g.b.wとANP投与群で肺重量が減少していた。このことは、ANPが肺水腫を予防することによりEndotoxin shockの生存率を上昇させている可能性を示唆している。
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